動物には人間にない能力を持っているといわれますが、このゴブリンたちにはどうやら顕著な能力はないようです。
しかし、各々の性格によってまだまだ新しい発見があるのでは…と期待しています。
「なるべく早く、この子の性格をつかみなさい」
最初のゴブリンがまだ小さい時のかかりつけの先生がこう言った。「性格? ゴブリンの性格って…」
私は途方に暮れた。
人間の性格ならある程度はわかる。でも、ゴブリンの性格と言われても、どうもピンとこない。「それはゴブリンなら
皆そうだよ」と言われてしまいそうだったからだ。まだゴブリンのことについて何も知らないんだ、と落ち込んだ。
アヌビーは、しつけの加減がわからないゆえに厳しくし過ぎて、人間に対しても一線おく、臆病なゴブリンに育てて
しまった。これは今でも私のせいだと深く反省している。
私は決して甘やかさなかった。その日から一匹で居間に寝かせたし、鳴いても放っておいた。何が大変だと言ったら
「可哀想だろう」と言って手を出すオヤジさんを止めることが一番厄介だった。正直言って、私もしつけの加減は
わからなかったが、かと言って一度甘やかしたら後で苦労するのは目にみえている。いつでも甘やかせられる…
そう思っていたが、それも間違いだった。私はムチばかりでアメをほとんどやったことがなかった。
これは私の育った環境のせいとも言える。母は厳しい人だった。私もアメをほとんどもらったことがない。それでも
愛されていることはわかっていた。愛されているから厳しくされている、ということを理解していた。しつけをする時の心情は
人間の子供もゴブリンもあまり差はないと思っている。しかし、される方からすれば、やっぱりいつも叱れているよりは
褒められたいと思う気持ちは、皆同じだ。ましてやゴブリンに、そんなことなど理解できるわけがない。ここですでに
知らない間に私は母と同じことをし、最も避けようとしいたこと…ゴブリンを擬人化していた。
生涯一匹のゴブリンしか知らなかったら、一緒に暮らしてなかったら、たぶん今でもゴブリンの性格なんて
わからなかっただろう。
初めて理解したのは、二匹目のゴブリンが家に来た時だった。こいつがタダものではなかった!
知人から貰い受けた二匹目は♀だったが、ひと目見た時から「凛々しい」顔立ちと憎めない人なつこさをもっていた。
半分シバの入った雑種で、四つ目のやはり黒いゴブリンだった。一匹から二匹に増やすことは結構勇気がいる。
特に私の体の具合がよくない時だったから、ダンナは反対した。お断りしようと思っていた矢先、すでに他へもらわれたと
いうことを聞き、縁がなかったのだと自分自身に言い聞かせていたが、そのゴブリンが出戻ってきたということで話は
再びぶり返した。しかも、その日はちょうどアヌビーが我が家にやってきた三年前と同じ日だった…。
これはヤバい。ヤバすぎる。
見てみるだけ…なんてありえない。ましてや「それじゃ、どうも」なんて帰れるわけがない。というわけで怪獣ゴブリンは
ネフティと名づけられ、二匹目の同居ゴブリンとなった。ちなみにネフティの名前は、これも古代エジプトの女神ネフティス
からもらった。そして闘いの幕はきって落とされた…。
いったいこいつは何を考えてんだ…そう思う日々が続く。思考回路が同じじゃないことはわかっているが、ネフティは
アヌビーと全然違う。アヌビーで体験し得た知識は、こいつには何の役にも立たない。これをやれば言うことをきく…
ということがわからなくなった。いくら我慢しても、やっぱり最後には叱ってしまう。しかもそれも暖簾に腕押し…とくれば
途方にも暮れる…。どんどんストレスがたまり、怒りっぽくなる。しまいにゃ、涙まで出てくる始末。
そう、これが性格というものなのだ。いくら叱っても無視しても、何もなかったように甘え、擦り寄ってくるゴブリンには
どう対処すれば良いのか。自分で見つけるしかない。
こういう奴は、本当に物覚えが良くてビックリする。どんなものにもとりえはあるものなのだ。何かの本に「ゴブリンの
記憶は15分程しかないので、それ以上閉じ込めておいたりしても、なんで怒られているのかわからない」と書いて
あったが、こいつは何週間でもたくさんのことを覚えている。仏壇に美味しいものを供えると、それから毎朝起きたら
真っ先にそこに行って確認する。一度捕獲に失敗したものも、次の日しばらくは知らないふりをしているが、
私が気を緩めた瞬間を逃さない。こいつは…いったい何者だ?
年を経るごとに少しづつおとなしくなっているが、本質は変わらない。アヌビーもネフティの悪戯を見て見ないふりを
するようになった。さぞや理解不能で呆れているに違いない。
ネフティに一番効く薬は、やはり無視することだ。甘ったれには良く効く。わざと他のゴブリンにやさしい言葉をかけて
やったりすればすぐスネる。丸一日口をきかず、目も合わさなければたいがいは…しばらくおとなしい。
さて、子供が生まれてもう一匹増えることになった。名前はナイル。
二匹目が大変なので相当覚悟していたが、こいつはどうやら父ゴブリンの血を多く受け継いだらしい。
これこそ、天の恵みだ…。
私と言えば、もうどんなものもドンとこい…という覚悟だったが、すっかり拍子抜けするくらい手がかからない。
まず重要なことは、彼女は自分がこの家の中で一番下だということをよく理解していた。アヌビーとネフティが親であると
いうことがわかっているか…という点については答えられない。ただ、人間の目から見れば、典型的な父親の存在の
大きい家庭だ。ナイルはアヌビーが怖い。滅多に近づかないし、アヌビーが側に腰を下ろそうものなら金縛りに
あったように身動きできなくなる。耳を平らにして凍りつく。そして、そこから脱出する機会を待つ。
しつけに関して言えば、私は何もしなかった。ほとんど親のしていること、そしてしてはいけないことを見ることで、
自ら学んだ。私はすっかり楽をさせてもらった。その分ネフティに目を配れる。
ナイルの大きな特徴はこれだけではない。彼女は平和主義である。例えば私とダンナが討論でもしようものなら、
真っ先に駆けてきて、ところかまわず舐めまわして「やめてくれ」とアピールする。穏やかな空気になると、
やっと安心して寝床に戻る。他の二匹の場合は、そういう時は「触らぬ神に祟りなし」。
これは私たちにとって非常に役に立つ性格で、おかげで滅多にケンカに発展することもない。しかし、一番助かることは、
ネフティが私の目を盗んで何かをやっている時だ。ナイルは私を探しにきて、前足でチョンチョンと体に触る。
見ると耳がペッタンコになっている。ひどい悪戯の時は、それに震えがプラスされる。これは「頼むから怒らないでね」
という意思表示なのだ。決して言いつけに来たわけではないのだが、結果的には私のスパイとしての仕事を
果たしてくれている。
ゴブリンには人間にない能力が備わっているという話を聞くが、うちではこんなことがある。
アヌビーは時々ボーッと空中を見て、「バゥ」と吼える。
ある日、ネフティがどうしても寝床であるケージの中に入るのを嫌がり、無理やり入れたらじっと斜め後方を見ながら
ガタガタと震えていた。それは1週間は続き、その後なんとか入って寝るようになったが、時々思い出したように
斜め後方を眺めることがある。こいつがこんな態度をとるのを初めて見た…。
ナイルには二度助けられたことがある。台所で料理をしている時に電話がかかってきたので話をしていると、急に
ムックリと起き上がってきて、やたらと足をひっかいた。後をついていくと、調理台の火が消えていた。
ゴブリンには見えないものが見えるのか…真相は定かではないが、私は家に時々母が遊びに来るのだと
信じている。それ以外は考えたくない。聴覚や嗅覚が優れているのはわかっていたが、知らせにくるのは
ナイルだけだ。エライ!
こうして三匹を比べると、自然とゴブリンたちの性格の違いがわかってくる。親子だから、似ているところを発見するのが
またおもしろい。
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