-ゴブリンたちの里親になって頂いた皆様へ-

子ゴブリンを引き取って下さり、可愛がって頂いて
アヌビー、ネフティを含め、私たち一同、
心より感謝致しております!
一言で言えば、増殖は私たちの責任です。本当にゴブリンのために何が必要か、改めて考えされられました。


         去勢、避妊…これらの不自然な行為は、私は好きではなかったし、可哀想なことだと信じていた。
         しかしそれはやはり人間と同等に見ているからで、自然の中ではなく、ゴブリンたちが人間と共に暮らすのならば
         しかたのないことなのかもしれない。自然にまかせて生みたいだけ生ませて、子供たちを全部面倒見れる環境なので
         あれば、きっとそうさせているに違いない。しかし、手術もさせないで発情期にストレスをためさせるより、彼らにとって
         楽に生きていけるのならばその方が幸せなのかもしれないと思う。ゴブリンはいったいどう考えているのか…
         まじめに膝を突き合わせて話し合えるのなら…一度本人たちに確かめてみたい。



         アヌビーの血気盛んな青年期の真っ盛りにネフティはやって来た。
         獣医さんには「十分気をつけないと、野生の本能を甘くみてはだめよ」と釘をさされていたが、やはり全然甘かった。
         ネフティの初めての発情期に何枚もバンダナでパンツをつくって履かせたが、嫌がってすぐに脱いでしまう。そのたびに
         注意し、四六時中目を光らせていたのにかかわらず、その瞬間はやってきてしまった。
         夕飯を食べている目の前でいきなり始まり、私とダンナはあわてて箸を放り出した。しかし、すでに遅し…。
         ゴブリンの交尾は一定時間たたないと、どうやっても離れない。その間嫌がるネフティをなだめながら、
         私はいろいろ
なことを考えていた。動物の本能というものについて感銘も受けていた。そんな場合じゃない、というのに…。
         人間と違って妊娠の可能性はまず間違いない。生まれてきた子ゴブリンをどうすればいいのだ。しかし、その一方で
         二匹の子供たちを見てみたいという気持ちも抑えられなかった。そして、アヌビーの時にあんなに引き取りたいという人が
         いたのだからなんとかなるだろう…という気持ちもどこかにあった。家族会議の結果、里親探しを試みて、
         もしそれでも引き取ってくれる人がいなかったら、その時は覚悟を決めて全部一緒に住らせるようにしよう、もしここでは
         無理だったら田舎に引っ越そう、そう結論を出した。いくら雑種とはいえ、子供が幸せになる道をなんとか探してやりたいと
         思った。もとはと言えば、最初から予測できていたことだし、どう考えても私たちの責任なんだから。

         初めての発情期での妊娠は好ましくないと言われている。なぜなら、母体がまだ大人になってないからだ。
         だから
とにかく無事に出産してくれることだけを祈った。フードの中に栄養剤も混ぜて食べさせた。経過は順調で
         X線の
結果、子供は5匹と判明。自宅で出産することを許された。ダンナは嬉々として出産箱を作ったが、当の
         ネフティには
嫌われた。結局ほとんどその中には入らなかった。空いている部屋を出産場所として選び、
         予定日の何日も前から
私はネフティと夜はその部屋で寝ることにした。


         その日は私の誕生日。夕方散歩から帰ってきて、テーブルの上にはお寿司が並んだ。大好きなウニを箸でつまんだ途端、
         ネフティの陣痛が始まった。また食事の最中…である。ダンナはネフティを抱えて出産部屋へ、私は一目散に
         仏壇に向かった。
         「どうか、無事に産めますように」
         万が一泣き声をあげなかった場合の処置についても習ってはいたが、いざその時になったら実際にできるのかどうか…
         心底不安だった。

         ダンボール箱の中の電気アンカのスイッチを入れ、たくさんのタオルを用意した。次から次へと生むため、踏まれないように
         子供を移すためだ。ヘソの緒を切るためのタコ糸も準備した。胎盤は普通は親が食べてしまうが、時にはお腹
         こわすこともあるということで、食べてしまう前に私たちが取り除くことにした。

         それからしばらくたって、最初の子が出てきた。ネフティの苦しげな声が響き渡っていたが、私たちは懸命に落ち着かせ、
         励ました。震える手でヘソの緒をタコ糸で縛って切る。元気のよい声だ。タオルで体を拭いてやって、暖かい箱の中へ。

         それからは3時間ごとに1匹づつ生まれた。しかし4匹生むと、もうこれでおしまいと言うように、ネフティはコンコンと
         眠り始めた。おいおい、まだ1匹いるんじゃないの? ダンナと頭を付き合わせるようにして、ふたりともイビキ
をかいてる。
         なんとものどかな風景…。

         空が明るくなった頃、思い出したように唸り始めた。いよいよ最後の子供。
         やっと揃った5匹をよく見ると、ゴブリンというよりは黒いネズミみたいだ。
         子ゴブリンたちは見えない目で泳ぐようにオッパイを探している。
         はい、お待ちどうさま!
         万が一ネフティが母親の仕事を放棄した時に備えてミルクも作って
         用意しておいたが、
そんな心配はまったく無用だった。
         疲れきってはいたが、
子供たちを見る眼差しはすでに母親。
         まだ自分も子供のくせに…。

         緊張とせわしさで忘れていたが、ネフティが子供たちに
         オッパイをやる姿を見た瞬間、やっと感動の嵐が押し寄せてきた。

                                                                初めての授乳
                                                        ネフティ…ぐったり

      

         さて、その頃アヌビーはというと、すっかりヘソを曲げていた…。何が起こってるのか皆目検討もつかず、
         なにやら
怪しげな泣き声も聞こえるし、時々人間が顔を出しては頭を撫ぜていく。でも、部屋には入れてもらえない。
         父親の辛さだよ…。

         私たちには平気で子供たちを触らせてくれるが、やはりアヌビーには警戒モード。私たちは様子を見ながら父子の対面を
         させることにした。
         皆真っ黒に見えたが、少しづつ違う場所に白い毛が生えていたので5匹を区別することができた。生まれた順番に
         「あいうえお」と名前をつけて、毎日体重と身長を測った。こんなに小さくとも力関係は立派に成立している。強い子は
         上のオッパイを吸う。そして大きくなる。だから時折場所を入れ替えてやって、小さい子にもチャンスを与えてやった。
         乳離れまではすべて母親が面倒をみるので楽だったが、問題はその後だった。
           

          しかし、本当にネフティは母親の役目を完璧にこなした。たかが6ヵ月前に自分も生まれてきたばかりだというのに。
          ここでまた動物の本能に圧倒される。
          子ゴブリンたちの目が開き世の中が見えるようになると、あちこちと動き回る範囲も広がってくる。。それまで入っていた
          ダンボールでは小さくなったので、いくつも組み合わせてだんだんと大きくしていった。高さも変えないと、
          知らぬ
間に出ているので油断はできない。うん、確かにゴブリンらしくなってきた。
          毎朝カーテンを開き、「おはよう!」と言いながら皆の顔を見まわす。結構これが至福の時だ。ふやかしたフードを与えて、
          ウンチの始末。新聞紙はまだあったかな…。かなり個性も出てきた。ネフティにそっくりなもの、アヌビー系。
          時にはダンボールの中に入って皆と一緒に遊ぶ。「お祖母ちゃんですよ〜」などとわけのわからないことも呟く。
          1日3回の子ゴブリンの食事に、親にも2回やらなければならないから、私はすっかりエサやり婆さんになった気分だった。
          なにしろ一日中フードをふやかしているのだから。それだけで1日が過ぎていく。
          さすがに雑種は強いと言われるだけのことはある。皆順調に大きくなり、そろそろ先のことを考えなければならない時期が
          やってきた。
       



         里親を探すために近くのスーパーの前に張り紙をしたり、獣医さんに頼んで写真を貼らせてもらったりしたが、一向に
         反応がない。さすがに心配になってきた。本気で田舎に土地を探さなければならないか…。
         ローカル新聞に広告を出してみることにした。すると、その日のうちに何人もの人から電話がかかってきた。
         勝手なもので、すでに情の移っている子供たちを手放す相手にいつのまにか条件などつけている自分に気がつく。
         …これが親心というものなのか。ん?祖母心…?
         瞬く間に5匹の行き先が決まった。しかも幸運なことに、皆近いところだった。
         ところが、である。ここで大問題が生じた。
         実は生まれた時、1匹だけ足に毛のないゴブリンがいた。先生に「そこは後で白い毛が生えてくるから心配いらないわよ」と
         言われてホッとしたものだ。
         私にとって5匹のゴブリンたちは皆可愛かったし、優劣などつけられるものではなかったが、特にそのゴブリンには
         言葉では表せないなにか惹かれるものがあった。…そう、引き取り手の来る前夜、私はどうしても眠れなかった。
         (その子を手放してはいけない)という声がなぜかずっと頭の中で響いていたのだ。しかし、すでに行き先は決まっている…。
         私は明け方までずっと悩み続けた。その人は、最近ダンナ様を亡くし、愛犬も亡くしていた。どんな子でもかまわないから
         欲しいと言っていたのだ。しかも、大きなお屋敷で、庭付き、メイドさんまで付いていると言う。何をどう考えても、
         不都合などありゃしないし、完全に私のわがままでしかない。この子が行けば、この子を含めて皆が幸せになるのだ。
         私は混乱していた。この気持ちはいったい何なんだろう…。他のゴブリンとの別れももちろん淋しかったが、
         こんな気持ちになったことはなかった。自分自身をなんとか納得させようと頑張ったが、これは理屈ではなかった。
         冷静に自分の心理分析などもしてみたが、何か違うことのように思えた。これは勘の一種だった。時々私に訪れるもので、
         今回はかなり強烈だった。(絶対に手放してはだめ)という声が繰り返し繰り返し響いている。しかし、だからと言って
         何ができるのだろうか…。私はついに耐え切れずに眠っているダンナを叩き起こした。そして訴えた。
         ダンナは3匹目など論外だったが、私の様子がいつもと違うことにうすうす気がついていた。そして、言った。
         「朝一番で電話して、正直に言ったら」
         そう…それしかないのだ。ダンナは暗黙の了解で3匹目を飼うことも許可してくれた。

         震える手でプッシュホンのボタンを押して、何度もお詫びをした後、何もかも正直に話した。しかし、相手の人は優しく
         こう言ってくれた。
         「いいんですよ。これも縁ですから、きっとその子は残る運命なんですよ」
         私はますます自分が情けなくなり、本当に人でなしのように思えてきた。そして、どっぷりと自己嫌悪の穴に落ちて行った。
         必ず別の子を探しますからと約束して切ったが、数日後、先方から電話を頂いた。
         「実は娘がね、見つけてきてくれたんですよ。だからもうご心配なく。本当にすごく可愛いんですよ」

        


         いろいろあったが、そんなことで、うちは親子ゴブリン3匹との変形二世帯住宅となった。
         その後すぐにアヌビーは去勢した。ネフティは子宮蓄膿症にかかり、ナイルも一緒に手術をした。母子は太りすぎを
         注意しなければならないが、とりあえず元気だ。皆これから先、生殖器の病気の心配はないだろう。
         手術をすることは病気の問題を解決することにもなる。近くに異性がいてストレスを感じるよりも、発情期を意識せずに
         伸び伸びと暮らしているから、これでよかったのかもしれない。
         今でも時々あの頃のことを思い出す。私たち人間のせいで、早くに子供を産ませられ、手術までさせられたネフティには
         本当にすまない気持ちでいっぱいだ。しかし反面、ネフティの産んだ子供たちは皆良い里親に引き取られ、人間たちを
         幸せにしていることも考えると、いつも複雑な思いになる。これを運命と呼ぶのだろうか…。

         私のゴブリンに対する考え方は、以前に比べたら少しづつ変わってきているようだ。
         人とゴブリンとの関係、人間以外の生き物に対する考え方、人は動物に何がしてやれるのか…考えなければならな
         いことはたくさんある。私ももっと勉強し、成長しなければ…。

         
          「なんだか…頭が重ーい」     「ほら、こうすればラクチン?」    「…今日のエクササイズおわり」
                               「あ、いいみたい










   


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