「ゴブリンとの生活は、一番贅沢な生活だ」と誰かが言ったとおり、
それは想像を越えた世界だ!
人間だけで暮らしていた時と何が変わったか…と聞かれたら、それはもう大違いだ。
気軽に旅行に行けなくなった。いやいや、そんなことはどうでもいい。本当に行きたかったら預けられるしかるべき
ところに預けて行けばいいのだ。持病をもっていたりするとそうもいかないだろうが、正直なところ、私が淋しい…。
だから毎年ゴブリンと共に車で旅行をすることにした。気軽に海外に連れて行けないのが本当に残念だが。
それでも、3匹も連れて行く…となると、うちにいた方がまだいい。
ゴブリンたちと同居を始めてから、結構規則正しい生活になったような気がする。私自身が不規則な規則正しさで
生活していたので初めは辛かったが、少しづつ慣れた。どこに持っているのか…今でも不思議でしかたがないが、
こいつらは「腹時計」を隠し持っている! 驚くほど正確に食事を要求してくる。その時の顔つきを是非見てもらいたいと
思うのだが、ものすごく偉そうに権利を主張する。といっても、これは、もちろんネフティのこと。
ゴブリンは人間の言葉が理解できるのか…私はNOだと思う。飼い主の表情や雰囲気を掴む能力は優れていると
思うが、言葉をきちんとは理解できないと思っている。
食事の直前の何分かは、唯一ナイルがアヌビーとコミニュケーションのとれる時間だ。時々やり過ぎてガウと威嚇
されることもあるが、常にアヌビーの機嫌が良く遊んでもらえる。それでもフードも気になるので、準備をしているところ
にも覗きにくる。そんな時「お父さん呼んできて」と言うと、再びアヌビーのもとへと吹っ飛んで行って、ちぎれんばかり
に尻尾を振り、体中を舐めまわす。
もしかしたら「お父さん」という言葉を理解しているのか?
こいつならありえるかも…と親バカ振りを発揮したのも
束の間。ダンナが「おまわりさんは?」と言っても飛んで行くし、「お隣さんは?」「お地蔵さんは?」「じゃあ、お坊さんは?」
と言っても同じだった。たぶん、こいつは「お」と「さん」の声の調子だけを理解していたに違いない。
…やっぱりね。
うちのゴブリンたちはシャンプーされるのは苦手なくせに、お風呂からあがった人間の足を舐めるのが好きだ。
なんでだろう…。
家を新築した時に、洗面所の隅に「ゴブリン用のトイレ」を作った。これは、外へ出ないとオシッコをしなくなったら
人間に何か不都合があった時に困るからだ。そして、もうひとつ。ゴブリンがマーキングのために外でオシッコをするのは
本能だからしかたがないとしても、やはり自分の家でさせるべきだと、私は思う。現在の住宅事情ではゴブリンの
トイレまで設置するのは無理かもしれないが、子ゴブリンの時のことを考えればできないことではない。
ゴブリンと散歩を始めてから、今まで目につかなかった看板がやけに多いのに気がついた。自分の人間の子供を
外でウンチさせないのなら、ゴブリンだって同じじゃないのか?
もちろんゴブリンは人間じゃないから、してしまったら
片付けるのは常識…と思ってたら、とんだ間違いだった。まあ、放りっぱなしのウンチの多いこと!
どんな教育を
受けた人間がするのか、本当に見てみたい。アスファルトの上で土に還るとでも思ってるんだろうか…。
いくらゴブリンが可愛いとアピールしても、こういう状態では飼っていない人の気持ちを変えることは無理だ。
うちでは、食事をしたらすぐに3匹がこぞってトイレの順番を待つ。散歩は別物なのだ。
ウンチと言えば、潔癖症のオヤジさんが、私がまだ赤ん坊の頃に指でウンチをほじくり出してくれたという話を聞いた
ことがある。とても信じられなかったが、同時に親の愛情とはスゴいもんだと実感した。
ゴブリンのウンチも間違いなく汚いけれど、毎日拾ってトイレに流していれば何とも思わなくなる。…臭いけれど。
緊急事態には、私だってオヤジさんと同じことをしてやれる…と確信している。
昔はよく落胆させられた。私のゴブリンで、私がしつけをして、私がフードもやっているのに、一週間に一度しか
遊びに来ない今のダンナの見るアヌビーの目つきのうれしそうなこと…。私にもしない甘え方までする。
これには思いきりヘコんだ。
後から考えると、やはり相性もあるだろうし、たぶん…これはたぶんの話だが、実は抽選の番号を当てたのは
誰であろうダンナの引いた札だったのだ。それをコイツは知っていたのか…。
ネフティはしょっちゅうだった。しつけが上手くいかず、もう何をしたらいいかわからず呆けている私の側を知らん顔をして
通り過ぎていく。だんだん性格を上手く利用できるようになると、アイコンタクトもとれるようになり、少しづつ
言うことをきくようになった。
そんな手間のかかる子だが、おっちょこちょいの私がどこかにぶつけて「痛っ!」と叫ぶと、いの一番で駆けつけて来て
ガムシャラに顔を舐めまわすのも、ネフティである。こいつのうまいところである。
ちなみに、私の機嫌の悪い時は完全に知らぬが仏を決め込み、狸寝入りに入る。
こんな私のの担当はナイルである。
ダメな子ほど可愛い…というけれど、本当にそうかもしれない。ネフティにはほとほと困り果てることがあるが、実は
この性格-好奇心が強く、へこたれない、愛嬌がある…私の大好きな性格なのだ。
次はそのまま人間に生まれておいで。
ゴブリンのしつけは、人間の子供のしつけとは違う。まあ、社会に迷惑をかけないため…という点では同じだが、
ゴブリンの場合はあくまで人間のためのしつけだ。いかに人間の生活に適応するか、もっと砕いて言えば、いかに
人間の邪魔をしないか、なのだ。人間がゴブリンより地位を上に保とうとしたら欠かせないものだが、下でも構わない
というのであれば必要ない。
私は時々ふと、思うことがある。この生き物たち、心でコミニュケーションをとるしかないものとの出会いも、
また縁であり、私が人間でこいつらがゴブリンなのも運命なのだ、と。同じ生命を持った生き物であることには
変わりはないが、人間社会で動いてしまっている以上、こいつらは人間に従うしかない。
それでも、こいつらは上手く生き方を変えてきた方だと思う。長い歴史の間に、きっと「人間についていた方が
子孫を残せる」と踏んだ奴がいたに違いない。
何年も一緒に暮らしていると、つい自分が良い飼い主になったからゴブリンたちが言うことをきくようになり、
従順になったんだと思いがちだが、実際にはゴブリンたちが何年もかけて人間を理解しようと努力し続けている結果
なのだと思う。
だから、私はそれを常に高く評価することを忘れずにいたい。そして、ゴブリンはゴブリンとして、尚且つ家族の
輪の内側の存在として、どこでどんな線をつけなくてはならないのかをいつも心にとめておきたい。
■ネフティの好物…食べるものには貪欲。食べられないものも食う。「ごはん」と「おやつ」には目がないが、
実はそれより好きなものがある。それはペットボトル!
「おやつ」との二者選択を迫られると、あの食い意地のはった奴が不思議にもこっちを選ぶ。
歯で蓋をこじあけるのが何よりも快感らしい…。理解不能。
■ネフティの嫌いな言葉…「じゃあね」と言われるのが何より嫌い。置いて行かれるのが一番恐ろしいらしい。
呼んでも来ない時はこれに限る。ただし、留守番させる時は厳禁。
うちには三匹もゴブリンがいるのに、ゴブリン用のオモチャがほとんどない。意地悪して与えないわけでもないし、
皆もオモチャが大好きだ。しかし、あるのは固いゴム製の可愛くないものがふたつだけ。これはすべてネフティが原因
なのだ。今までそれはたくさんのあらゆるオモチャを買ってやった。だが、すべてネフティが独占してどんなものも全部
30秒で壊してしまった。そして…食べる。プラスチックも…食べる。これならどーだ!
と固いゴム製を試してみたら見向きも
しない。自分のものがないから、いつも破壊できるものを探している。バッグの蓋を開けっ放しにしようものなら、
中からなんでも引っ張り出す。ティッシュがあればニンマリ。…食べる。しかも、高いティッシュと安いティッシュがあれば
必ず高い方を選ぶ…。味、違うの?
ネフティは小さい時から腰を抜かすようなおかしなしぐさをすることがあった。頻繁ではなかったので、あまり気にして
はいなかったが、4才になった時、身体を硬直させるようになった。慌てて医者に連れて行くと、もしかしたら癲癇かも
しれないと告げられた。これには打撃を受けた。詳しい検査の結果、やはりそうだった。頻度が少ないため、まだ薬は
必要ないが、多くなってきたら飲み始めなければならない。普段が普段だけによけい可哀想だった。私は手をこまね
いて待っていることが大の苦手なので、さっそく他に方法はないか調べ始めた。
そして何ヶ月か経った時、なんということか、私も癲癇の発作を起こしたのだ。私は生まれてから一度も経験はなく、
調べたが遺伝もない。専門医に通い薬を飲む生活が始まった。発作を起こしてからずっと頭の中はボーッとしている
ことが多く、当時は原稿なども書いていたが、時折言葉を失うこともあった。何より怖いのは、意識を失うことだ。何分間も
まるで覚えていない。不思議なことに、気がつくといつも座布団を並べて枕をきちんとしているので、知らない間に
やっているらしい。(ここは笑うところです)
ネフテイよりも、まず私をなんとかしなければ…。ひとつはある健康食品を購入した。毎日ネフティにも飲ませることにした。
人間に効くのならきっとゴブリンにも効くはず。そして私は以前から母の通っていた整体の先生に事情を話して
診てもらうことにした。私の頭はたぶん何年も前かもしれないが、強くぶつけたことが原因だろうということだったが、
正確には思い出せない。とにかく、それから思い切って薬もやめた。大嫌いだから嫌で嫌でしかたがなかったのだ。
そしてまた何ヶ月か過ぎた頃、気がつくとネフティの発作はピタッとおさまり、一度も起こさなくなっていた。改めて
まだ脳波を調べてもらってはいないが、おさまってからすでに二年近く経つ。私も健康食品と先生のおかげで、
それ以来何事もない。
ネフティが初めに脳波の検査に行った時、先生が「雑種なのにねぇ」と首をかしげていたのを覚えている。まあ、雑種でも
いろいろあるだろうし、それこそ小さい頃にどこかに頭をぶつけた可能性は、こいつの場合十分あり得る。
しかし、飼い主も同じ可能性で同じ時期に癲癇の発作を起こす可能性は? こいつとどこかで結ばれている、なんて
青くさいことは言いたくないし思いたくもないが、今でも本当に不思議な気がするのだ。
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