アヌビーが去勢した時、日帰りだったので、夕方自転車で迎えにいった。本当に痛々しく、心の中で「ごめんね」を
何回言っただろう。荷台のカゴににクッションをひいて、揺れないように押して帰ったのを今でも覚えている。
ネフティが避妊手術をした時、一泊の予定だったが、夜中近くになって先生から電話があった。「暴れてうるさいので
引き取りに来てくれる?」たまにそれでケガをするゴブリンもいるということを入院時に聞いていたので覚悟はしていた
が、一晩くらい泊まれんのか! 手術後の経過のことを考えたら、入院してくれていた方がよっぽど安心なのに。交代で
ナイルも手術をした。こいつは夜までもたなかった。「…先生、手術いつ終わったんですか?」「三時間くらい前」麻酔が
切れたとたんだ。人間が外出して留守番させても、いつもおとなしいナイルにとっては珍しいことだ。日頃、ネフティと
いつも一緒にいるから、ひとりになって不安だったんだろう。これは私たちの群れに加わるのが後になるほど本当に
難しい。1匹づつ生活するということがほとんどないからだ。二匹のおかげで二晩は徹夜だった。痛がって朝までクン
クン鳴くからだ。ナイルが痛がっている時にはネフティは側から一歩も離れようとはしなかった。へたに手を出しては
…と思い、ナイルをサークルの中に入れたが、食事以外はずっとその場から離れようとせず、時折中を覗きこんでい
た。美しい親子愛…。
しかし、動物の回復力はさすがにスゴイ…。日頃から痛みに強いということはわかっていたが、二日目にはもう悪戯
を始めるは、駆けずり回って遊んでいる。そうしなければ自然では生き延びられないからなんだろう。少しくらいの痛
みでは知らんぷりをしているから、やはり常日頃気をつけてやらなければならない。
それにしても、何かあった時に入院もできないようでは、本当に困ったものだ。深刻な悩みだ。もっと厳しくしなければ
ならないのだろうか…。



うちでは要所要所に木の柵が取り付けられている。ゴブリン専用のものは見た目に美しくなく、どうしても付けたくな
かったので、赤ちゃん用のものをつけた。園芸用のラティスのようになっており、開けると縮んで場所もとらない。閉め
た時は閂がかけられるようになっている。しかし、つい面倒な時や時間のない時には閂をかけ忘れることがあるのだ
が、ネフティはそのひし形の木の間に手を入れて難なく開ける。それだけではない。居間から階段に出る戸は引き戸
になっていて、年々固くなり、私でさえ時には両足を踏ん張ることもあるのに、ネフティは隙間のないところにも爪を入
れて、最後は鼻でこじ開ける。それもいともやすやすとやってのけるのだ。これは執念としか言いようがない。いくら
冷房や暖房を入れていても、勝手に開けてしまう。寒い時や暑い時に自分で調節するのは構わないが、閉めることも
覚えてくれ !
ちなみにアヌビーは絶対にやったことはない。やろうとする意志がないのか、やってはいけないことを知っていて
やらないのかわからない。ナイルは最近になって、だんだんお母さんのマネをするようになってきた。それでも良いこ
とではないことはわかっていて、こっそりやる。もともとはネフティがあまり悪戯するので木の柵を取り付けたが、
ネフティがこれではなんのために付けたのかわからない。



三匹のゴハンは日に二回だ。一回にしてみたこともあるが、やはりアヌビーが胃腸が弱いので二回に落ち着いた。
三匹三様、全部フードの種類が違う。アヌビーはシニア、ネフティはライト(肥満用)、ナイルはアレルギー用のライト。
食べる場所は少し離すが、ネフティだけは隔離される。早く食べて他のものを狙うからだ。それでも自分が食べ終わ
ると柵の向こう側にいるナイルにプレッシャーをかける。「残しなさいよ」
以前はよく誰かが夜中に吐いていた。先生に相談したところ、どうもお腹が空きすぎて吐くらしい。うちは夜が遅いの
に、早く夕飯をやっていたことが原因らしかった。食事の間隔の時間を計算して与えるようになったら今ではほとんど
吐かなくなった。それと、マメにコロコロでベッドを掃除することだ。



三匹もいると、誰の仕業かわからないことがよくある。テーブルの上のものを落としてまで悪戯するのは、間違いなく
ネフティだということはわかっている。ティッシュを食べるのもネフティ。水を飲んだ後、ダラダラとこぼしながら歩くのも
ネフティ。そう、うちの場合はほとんどこいつが犯人なのだが、一番困るのは、誰が吐いたかわからないことだ。
ネフティはもったいないと思っているのか、ほとんど吐いたことがない。逆に吐いた時はちょっと心配になる。
「誰が吐いたの?」と一応聞いて反応を見てみることにはしているが、だいたいわからない。ただ毛を出すだけなら
いいけれど、次のゴハンの時に様子をみるしかない。



一匹づつ散歩に連れていくと皆かなりお利口さんで、他のゴブリンにも吠えないし、ちゃんと横について歩ける。
アイコンタクトもきちんととれ、フンの始末をしている時も座って待つことができる。
しかし…三匹を一緒に連れて出ると、どうしてそれができないのか?
ネフティはお宅拝見が大好きで、階段を上って玄関まで行きたがる。これで結構小心者で、吠えるよりも人の後ろに
隠れる方が多い。外に出ると一番おとなしいかもしれない。ナイルはいきなり元気になる。三匹だと怖いものがないと
勘違いしているのか、偵察隊と豹変し、ワンワンとないて何でも知らせる。それを聞いたアヌビーは何なのかわからな
くとも一緒に吠える。他のゴブリンと出会った時などは最悪だ。
だから三匹と出かけた時はクタクタだし、声も枯れる。こんな具合なので、旅行もペンションなどに泊まった日にゃ
どうなることかと、貸し別荘にしか行ったことがない。
この変わりようの原因は何なのだろうか? まだまだ一匹づつの躾が徹底していないせいなのか。三匹の結束が
あまりに強いからなのか。わからない…。



昨年の5月、ネフティの右目の中にほんの小さいものだが、白いものを見つけた。
嫌な予感がして獣医さんへ連れて行ったが、きちんと検査をすることを勧められて専門病院に連れて行った。やはり
白内障だった。外からはまだほとんど確認はできないが、すでに両目に及んでいるということだった。
普通は老化現象として表れるが、ネフティはまだ6才なので若年性である。
検査に行った日は日差しが強く暑い日だった。私は悪戯好きのネフティの目が見えなくなり、そこいらにぶつかって
歩くところを想像するだけで目頭が熱くなり、前日は一睡もできなかったことを覚えている。検査の間も待合室で
じっとしてはいられずに外をブラブラしていた。そして、たくさんの機械のある部屋に呼ばれて説明を聞いている最中、
不覚にも貧血を起こした。まったく、頼りにならない飼い主である…。ソファに横になっていると、先生と看護婦さんが
慌てて毛布とお水を持ってきてくれた。本当に親切にして頂いた。ネフティも心配そうに側で私の顔を覗き込んで尻尾
を振っている。これでは誰が病人なんだかわからない…。
白内障の進行を遅らせる点眼の効き目には個々で差があり、ネフティに効くかどうかもわからず、逆に進行の恐れも
ないとは言えないと言われたので、一応頂いてきたが使用はしなかった。手術については帰宅してから調べてみた
が、人間同様にかなり進歩していることがわかった。しかし、ある程度まで白くならないとできない。つまり、ほとんど
見えなくなるまで放置しておく、ということだ。
手をこまねいて傍観していることの大嫌いな私は、帰宅すると早速調べてみた。自分自身が薬が嫌いでいろいろな
健康食品を試していることから、ネフティにも効くものが何かあるはずだ。たとえ完治はしなくとも…なにか。
私も愛用しているが、人間の目には「ブルーベリー」や「ルテイン」が効くのだからネフティにも効くに違いない。
その頃「核酸」についての資料を調べていたことから、動物用のものはないものかと探したところ…あった。問い合わ
せしたところ、白内障には効果がないかもしれないと言われたが、試しにしばらく飲ませてみることにした。
効き目は簡単に見えるものではないので不明だが、今でもブルーベリーの粒は毎日ひとつづつ飲ませている。
現在も右目の白い部分はさほど大きくはなっていない。左目にも小さな白い点が表れてきたが、ちょっと見ただけで
はわからない。本人はたぶん目の前がボーッとはしているのだろうが、とりあえず以前と変わらず飛び歩いているし、
私たちには見つけられない小さなものもどこからか見つけてきては悪戯をしている。まあ、人間とは違って鼻や耳の
利く生き物だから、今のところはそれでカバーしているのかもしれない。費用もバカにはならないが、果たして手術を
するべきかどうか…。全身麻酔だから、手術自体にもリスクがあるし…。
結論は手術ができるようになった時点の年令や体力をみて決めようと、今のところ考えている。



ネフティの癲癇発作がしばらくおさまっていたので、しばらく私もネフティもそのために飲んでいた健康食品を止めて
いた。
今年に入ってから、ある夕方にひどい雷が鳴っていた日があった。ふとパソコンに向かっている私の足元で寝ていた
ネフティを見ると、四肢を突っ張り失禁している。久しぶりの発作だ。本人も久しぶりですっかりパニック状態。私は
できるだけなんでもない素振りをしながら「大丈夫だからね」と声をかけながら、急いでダンナを呼んだ。発作がおさま
るまで体を撫で声をかけてやる。しばらくすると震えはおさまり、まだ息は荒かったが何でもないように立ち上がって
水を飲みに行った。私たちはホッとして後片付けをした。
雷と脳波には何か関係があるのだろうか?発作を起こすたびにダメージが大きくなるので極力押さえなければならな
い。
それから再び私もネフティも大豆発酵エキスNTとフコイダンが配合されている健康食品を飲み始めた。



よく、薬を飲ませるのが大変だという話を聞く。3匹のゴプリンは三者三様。
■アヌビー
     飲んでも良いと思った時は自ら進んで飲むが、飲みたくない時は手でこじあけて放り込んでやると
     素直に飲む。
■ネフティ
     口に入るものは何でもいい。たとえ苦くとも喜んで飲む。他のゴブリンが飲んでる時も必要ないのに
     「くれ」とせがむ…。
■ナイル
     飲みたくない時はガンとして抵抗する。特に錠剤は舌を上手く使って押し戻す。飲み込んだかな、と
     思わせておいて、しばらくしてペッと吐き出す。鼻に息を吹きかけようが喉をさすろうが、絶対に
     飲み込まない。…一番苦労する。



私はどちらかというと日本犬が好き。一緒に暮らしてしまえばどんな犬種でも好きとか嫌いでなくなるのはわかっているけれど、やっぱりあの凛々しさがたまらない。
ネフティに半分柴犬の血が入っているからか、中でも黒柴を見ると他人とは思えない。でもひとつだけ淋しいことがある。
ことあるごとに犬種という文字が目の前に出てくる。もちろん、雑種は雑種なりの犬種で誇りをもってはいるけれど、
みかけは黒柴と変わりないのに仲間には入れてもらえない淋しさだ。
当の本犬はなんとも思っていないに違いないのだが…。

アヌビーは時々甲斐犬と間違われる。アヌビーの素性については何ひとつわかっていないから、
もしかしたらその血も受け継いでいるのかもしれない。
ナイルは彼らの娘だから、間違いなく雑種。
考えてみたら犬たちを介して人間がその仲間を形成している…ということだけのお話だから、
なにも淋しがる必要もない。反省。




名前を呼ぶ時にいつも同じ名前で呼ばないと、犬は理解できないと聞いたことがある。
うちでは、もう1匹づつにたくさんの呼び名があるけれど、彼らはとりあえず「あ〜自分のことみたいだな」とわかっているようだ。

なんといってもネフティは多い!毎日様々な呼ばれ方をする。ほとんどが叱られているから自分だとわかるのだろう…。まともに呼ばれることは滅多にない。
■アヌビー
    アヌ太郎、アヌビの介、あぬび(尻上がり)、アヌ爺
■ネフティ
    ネプ、すねネプ、ネフ子、ネプンチ、ションベンネフ、ネフラ、ネフ吉、ネフの助、ネフ蔵(ネフ象の時もあり)
    コラ(一時期はこれでしか呼ばれなかったので、自分の名前だと思っているフシあり)、ヨワネプ(理由は↓)
■ナイル
    ナイ、ナイボ、ナイナイ




夜ゴハンが終わって落ち着くと、ナイルはいつも母親を遊びに誘う。ネコのように体を丸めると一気にジャンプ!
ネフティがうるさがろうがお構いなし。首にかじりつくとガジガシと毛を噛む。時にはむしりとる。
そしてネフティがしかたなく反撃に出るとクッションの争奪戦が始まる。引きずり出してきて「あたしのよ!」「なによ!」
てな具合。毎度のことなので人間の方はしらんぷりを決め込むが、ここで用心しないといけないことがある。
足を踏まれないように気をつけることだ。このワンポイントで踏まれると痛いのなんのって…。
結論から言うと、必ず最後にはネフティが負ける…。そして人間に庇護を求めにくる。私たちを背中にして、
時には足の下に潜り込む。ホントに情けないったら…。それでも決して庇ってはやらない。
ソファの上にわざと足をのせて退却。
ウルウル目で見られてもしらんぷりを決め込む。図体のデカいネフティが一方的にやられている姿は感動的ですらある。
もちろんお遊びだから決してケガをすることはないし、これが終わればいつものように仲良くいたわりあったり、
舐めてあげたりしている。時にはやり過ぎて「キャン!」と声をあげることもあるけれど、どだい大したことではない。
その声の主はもちろんネフティだ。それはゴングとも同じで、そこで終わりってこと。
たまには、ネフティが誘うこともある。この場合はナイルにその気がないのにネフティがあまりにしつこい時は、
逆に「ガウッ!」と一喝される。
3匹の順位は時にはわからなくなることがある。たぶん、固定ではないだろうから変化しているのかもしれないが、
私たちには判断しにくい。普段はアヌビー(父)、ネフティ(母)、ナイル(娘)なのだが、遊びは無礼講なんだろうか。
また、ふと思うこともある。ネフティは、やはりナイルが娘だと認識しているのか…。ナイルにはかなりやさしい一面を
よく目にする。耐えることもある。しかし一歩外に出れば、ナイルを守ろうとして強くなる。まるで人間の母親と同じだ。





   

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