いつ…どこで…どんなふうに?
心のこもった結婚式
リムジン

長すぎてカメラに入らない…
静寂のひととき
結婚式はだれにとっても、やっぱり特別なものだと思います。私はかなり長い間独身でしたし、絶対に結婚するという
保証もありませんから、特別な夢などは描いてはいませんでした。それでも、いざ結婚が決まった時、欲張りの虫が
ムクムクと起きてきて、あれもやりたい…これもやってみたい…と今までの分を取り戻すかのように結婚式に向かっ
て突き進み始めました。(笑) かなりプライベートなことなので、どうしようかと散々迷いましたが、もしこれから結婚
される方の参考になれば…と思いきって私の「結婚式のすべて」を暴露することにあいなりました…。
見たい方だけ、どうぞ!結構長いですよ。やなとこ来ちゃったな…と思った方はクリック!戻る




事情が許せば…日本では挙げたくありませんでした。昔と違うとはいえ、やはりお決まりで値段ばかり高く肩のこる
結婚式よりは、本当に祝ってくれる人たちとの酒盛りだけでいい。本当はそれでもよかったんですが、イギリスにいる
友人たちやジュリアたちのところでできたらどんなにいいだろう…とずっと心の隅で思っていました。幸い、ダンナも
向こうで何ヶ月か暮らしたことがあり、共通の友人もたくさんいました。そして、密かに「ここでできたら最高だけど…
無理だよな〜」と思っている場所もありました。それは王立植物園!
留学当時から、あのだだっぴろい敷地を自分の庭のように思っていただけに、それは憧れでした。しかし、そこは
王立です。ダイアナ妃だって自分の温室を持っていた由緒正しい場所。無理無理…だけど、聞くだけ聞いてみよ。
…と、こういう時はかなり行動の早い私は、さっそくイギリスのジュリアに電話しました。
「結婚、決まったよ!」
「ホントに?おめでとう!よかったね」
「ありがとう。…ところでさ、式をそっちで挙げたいと思ってるんだけど」
「本当に?…何でもお手伝いするわよ」
「うん。でね、あの植物園なんだけど…あそこは無理だよね」
「大丈夫じゃない?」
「…ホント!!」
「先週、有名なサッカー選手が結婚式したわよ」
残念ながら、私は一般人。しかも、外人。
「わかった、聞いておいてあげる」
次の日、ふたたび電話をすると、
「OKだって」
「ウソ…。日本人だよ、あたし」                              園内では見慣れた風景
「日本人では初めてかもよ。詳しいことはファックスで送るから」
「ありがとう!本当にありがとうね!」
しかし、こういうことがあるから、思い込みだけで物事をあきらめてはいけないのです。何かを一生懸命求めれば必ず
どんな形でも報われるのです。
次はウェディングドレスです。やっぱり一度は着てみたい。どうせ着るなら自分でデザインしたりして、一番気に入った
ものを着たい。正直言って、当時は気に入ったものでサイズが合うものがなかったんです…。シンプルでいて華やか
さのあるもの、自分の体型に合っているもの…なんて言うだけは簡単。一回しか着ないからこそこだわりたい。究極
の贅沢かもしれませんね。中世のドレスが大好きなので、ちょっとテイストを入れて何枚もスケッチしてみました。
日本でも立場上やはりパーティはやらなければならないと思い、室内でも動きやすいような丈にして、広いところや
庭園ではきれいに見えるように、後ろに長い裾をホックでとめられるようにしました。いっそ自分で縫ってしまおうかと
も考えましたが、絶対にそんなことやっている暇などあるわけがない。かろうじてリングピローと、それと同じ布で
バッグを作りました。そしていろいろなもので探した結果、こじんまりしたアトリエを見つけ出しました。素人の書き
なぐりのドレスのデザイン画を持参すると、お値段も手頃で感じもよさそう。決まりです。
さてさて、いくらジュリアたちが手伝ってくれるとはいえ、パックではありませんから、忙しい日々になりました。毎晩
夜中を過ぎるとイギリスに電話をしたり、ファックスをいれなければなりません。
結局、植物園の中の一角にあるギャラリーを借り切って、式とお食事を行うことになりました。すべて持ち込みで、
ケータリングや当日の花など、すべてジュリアが手配してくれました。それでも、ワインの銘柄は?チーズは?と
聞かれても…答えられない。もう、ほとんどお任せ状態。
招待客は約40名。イギリスにいる友人たちには招待状を送り、そのうち10名ほどは日本からわざわざ足を運んでく
れる親や元スタッフなどの友人たちでした。イギリスにいた時からの友人のひとりはトルコのイスタンブールに在住
していましたが、なかなか会えないので無理を言って来てもらい、ついでに通訳までさせてしまいました。
イギリスではお祝儀の習慣はありません。ただ、心からの贈り物を新郎新婦に持参するのです。なんとも形式に
とらわれず良いと思いませんか?本来はこれが本当なのでしょうね。しかし、やはり何かお返しをしたかったので、
綺麗な色の日本模様の風呂敷をたくさん持参することにしました。彼らはそれをテーブルクロスにしたり、タペストリー
にしたりするのです。しかも、これならかさばりません。
忘れてはならないのが写真とビデオ。人に頼んで煩わせるのが嫌だったので、これも直接イギリスの写真屋さんに
依頼しました。
一方、ウェディングドレスの方は何回も仮縫いの試着に行かなければなりませんでしたが、実はその時私は胆石を
かかえていました。それまで激痛で何度も夜中に病院に駆け込んだりしていましたが、お決まりの検査では胆石が
見つからず、そのまま忙しい日々になってしまい、しかたがないので脂っこいものを避けたり、食べ過ぎに注意を
したりしてダマしダマし生活していました。すると、なんてことでしょう…。仮縫いに行くたびに、ため息をつきながら
こう言われたのです。「お願いですから、もう痩せないでくださいね」…生まれてこのかた、こんなことを言われる日が
来ようとは想像もしませんでした。きっとこの先もないかも…しかし、喜んでいる場合ではありませんでした。
そんなこんなで、イメージ通りのドレスが出来上がりました。ダンナはといえば、向こうに着いたらタキシードとシルク
ハットなどを借りる予定でしたので楽でした。
新婚旅行は、すでにイギリスに行くこと自体で満足するべきでしょうし、ヨーロッパの他の国々も近いのでどこへでも
行けましたが、やはりそれまでの疲れを癒したり、何よりも帰国してからの仕事に備えるために、どこか落ち着いて
ゆっくりできるところが必要でした。そこでまた、ひとつ思い出したことがありました。一度お城に泊まってみたかった
ことです。調べてみると、思い通りのお城ではありませんでしたが、さほど遠くないところで良いところを見つけまし
た。そしてすぐに予約を入れました。聞くところによると、広大な敷地の中には何でもあり、スポーツジム、乗馬、エス
テ、スカッシュ…ん?エステ…体を癒すにはこれしかありません。この場合、スカッシュはあまり魅力的ではありませ
んでした。そうです。帰ったら再びスカッシュのお仕事が待っているのですから。




ヒースローに到着すると、ジュリアが満面の笑みで出迎えてくれました。この日は奇しくも私の誕生日。できればこの
誕生日を迎える前に結婚したかった…などともう贅沢を言うのはやめました。思ったよりも涼しく、相変わらずどんより
としたお天気でしたが、夜にはすでに到着していた友人たちが行きつけの中国料理店で誕生日を祝ってくれました。
まさしく前夜祭でした。
当日の朝、日本の結婚式とは違って髪の毛をつくってくれる人もいなけりゃ、メイクをしてくれる人もいないので、
ひとりでバスルームにこもってセッセと準備をしました。当時は髪の毛もかなり長かったのですが、あえてアップには
しませんでした。それは日本を出発する前から決めていたのです。自然の中で式を挙げるのだから、なるべく私も
自然でいよう…と。髪につける花も手に持つ花束も、そしてダンナの胸につける花もすべてジュリアが摘んできたもの
で作ってくれました。私が今まで見た中で一番綺麗で可憐な花たちでした。私はこの家から式に向かえることを
心から感謝しました。お父さんのマルカムは、すでに代々伝わるタータンチェックの正装を身につけていました。貫禄
があり、さすがに良く似合います。
「出発の時間よ〜!」という階下からのジュリアの声で階段をつまずかないように降りていくと、
あっちゃー!外は大雨…。すると、すでに前に車が待っていましたが、家の中から真っ白な
シーツを持ち出して、皆でかけてくれました。
いつも通っていた門の反対側、テムズ川の側の門から入るために少し迂回をして行き、
車から降りると、あれからたかが10分かそこらなのに、空には太陽が出ていました。
きっと母のおかげに違いない。肝心の時にはいつも晴れる…母は晴れ女だったのです。
心の中でそっとお礼を呟きました。
懐かしい顔にたくさん出迎えられて、私はすでに感激で胸が詰まっていました。
スカッシュの生徒だった子たちも何人か来てくれましたが、すっかり青年になっていて
驚くやら面食らうやら。
日本から来てくれた女の人たちは、ほとんど着物を着てくれたので、イギリスの友人たちは
大喜びでした。ギャラリーはこの人数には適度な広さでしたし、バイキング形式でしたので、
各々が好きなだけ食事を選ぶことができてゆっくりとテーブルにつけたので実に和やかな
雰囲気でした。私はと言えば、とても結婚式と思えないほどリラックスをしていました。
皆と語らいながらシャンパンを飲み、大きなお皿に盛られた食事もその間にペロリとたいらげました…。
さて、肝心の式ですが、もちろん私たちはキリスト教徒ではありません。ですから、よく映画などで聞くあの牧師さん
や司祭さんとの問答をすることはできません。しかし、ジュリアの友人でもある女性の牧師さんが、私たちのために来
てくれて、式としては最高とも言える儀式を執り行ってくれたのです。指輪の交換の前には、素晴らしいお話を聞かせ
てくれました。夫婦となる人間は常に良い友人であること…胸に染み入る言葉であると同時に、こうして国の違う者
同志がたくさん集まっている場にもふさわしいお話でした。本当に私は恵まれている、多くの人たちに支えられて
生きている、これからもこの瞬間を思い出して生きていこうと誓ったのでした。

        
            ギャラリー                       牧師さんのお話

ウェディングケーキは、これまた「サプライズ!」の手作りでした。しかも、スカッシュのラケットのお菓子までついて
いました。向こうではこのケーキを子供が生まれた時に食べさせると言います。つまり長持ちするように作られている
のです。しかし、実際にどのくらいもつのかは不明…。入刀の際には固くてナイフがなかなか入りませんでした。
もちろん、その後しっかり日本に持って帰ってきたことは言うまでもありません。
フランス窓から外に出て皆で記念撮影。いつもならこの季節にはそこここで花が咲き乱れ、暖かい日差しがふりそそ
ぐはずなのにその年は結構寒く、風も吹いていました。それからしばらくは園内を散策。もちろん園内すべてが貸切
ではないので、観光客とも出会います。ドレス姿で歩くのはちょっと気がひけましたが、皆が口々に「おめでとう!」と
言ってくれました。
願いのほとんどすべて叶った結婚式でした。叶えられなかったことは…亡くなった母がそこにいなかったことでした。
しかし、実はこの日は”母の日”だったんです。

    
   ウェディングケーキ       フランス窓の前で撮影




車は、すべてタクシー運転手をしていた友人が手配をしてくれました。
家から植物園に向かった時はアンティックカー、そして今度はロンドンに三台しかないという長〜いリムジンでした。
日本ではとても手が届かなかったでしょう。中にはシャンパンが用意され、花も飾られていました。
一時間弱ほど乗ると、車はクリブデンの大きな門をくぐりました。すでに敷地の中です。しかし一向に目指す建物は
見あたりません。それでもやがて「もう少し乗っていたかったのに」とブツブツ言いながらも到着してしまいました。
そこはほとんど外の世界とは切り離された別世界でした。
うやうやしくドアを開けてくれて、まず一言。「ご結婚、おめでとうございます。ようこそ」
ホールに入ると、まず目に入ったのは大きなタペストリーと光った鎧。しかし、そこにも幸運は待っていました。
「申し訳ありません。ご予約の際に手違いがありましたので、特別に二階の角のお部屋をおとりしました」
そうなのです。出発前のやり取りで小さな問題でしたが、結局発つ日までに解決しないままでした。それでも宿泊の
問題ではなかったので放っておいたのですが…そこはさすがに対処の仕方が違います。角の部屋は景色もよく、
料金も高いのです。ラッキーでした。建物の外観は単純なコの字型なのに、中の通路はまるで迷路のようでした。
歩く両側にはまるで博物館のように絵画や彫刻が飾られています。そして、階段を上がったり下がったり…。なぜ
二階に行くのに降りなければならないのか疑問でしたが。部屋の中はとにかく落ち着いた雰囲気で暖炉もあり、何も
かも揃っていました。付け加えると、もちろんお風呂は大理石でした…。

        
           正面の長い車道から                    部屋の中

テーブルの上には支配人からのメッセージとプレゼントが。それは、この建物の歴史の分厚い大きな本でした。
食事は階下のホールの隣りにあるレストランでとります。地下には五つ星のもうひとつのレストランがありましたが、
それは翌日にとっておきました。ここは宿泊客と会員しか来ないので人も少なく、ぎっしりと壁を埋めつしている本に
囲まれた高い天井のレストランで静かな夕食を楽しむことができました。
さて、給仕さんが再びやってきました。
「コーヒーになさいますか?」
「ええ、お願いします」
「それでは、どちらで?」
「・・・・・・?」
「右手に図書室がいくつかございます。只今ひとつは空いておりますので、そこにお運び致しましょうか」
「じゃあ、お願いします」
おそるおそるその扉を開けてみると、こじんまりしたちょうどよい広さで、暖炉の火が赤々と燃えていました。テーブル
の上にはトランプやゲームがいくつか載っており、もちろん壁にはまたもや本がギッシリです。
熱いコーヒーをすすりながら、私たちは今日一日のできごとをゆっくりと思い出していました。
翌朝鳥の声で起きてみると、前の日には暗くてわからなかった景色が目の前に広がっていました。私は午前中は
エステの初体験。とにかくなんだかわからないものに入ったり、マッサージをしてもらって至福の時を過ごしました。
その間ダンナはジムやプールで時間潰し。よく美しく見せるために結婚式前にエステをしますが、私の場合は前より
もやっぱり後で疲れをとってもらった方が正解。午後は中庭に出てビックリ!とにかく広い。誰もいない。朝から静寂
という意味を考えていましたが、ここでは音は鳥の声だけなのです。耳鳴りがするほど静か。中庭を抜けていくと、
やがてテムズ川に出ます。森の中を彷徨い歩くうちに次第に日が傾き、時が流れていくのを肌で感じました。
次の日も、一日中自然の中を歩いて心の洗濯をしたのでした。
部屋においてあったゲストブックを覗いてみると、お年寄りの夫婦が結婚何十周年の記念に泊まりに来ましたと
書かれているのが多く見られました。さもありなん。私たちも何十年かしたらまたここを訪れたいと思いました。

     
    車道を挟んで建物と反対側にある噴水                中庭





    


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